(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo
わが夢 わが歌 Caro Mio Bén Caro mio bén, |
《蛇足》 アリアとしてもナポリ民謡としてもよく歌われる有名な曲です。
作曲者は長い間ジュゼッペ・ジョルダーニ(Giuseppe Giordani 1743-1798)とされてきました。しかし、イギリスの音楽学者ジョン・G・ペイトンが、実際の作曲者はジュゼッペの兄のトンマーゾ・ジョルダーニ(Tommaso Giordani 1730-1806) であると、『イタリア歌曲26曲集(26 Italian Songs And Arias)』のなか主張しています。トンマーゾが刊行した’The Nanki Library’などがその根拠のようです。
しかし、ほとんどの楽譜や演奏会のプログラムには、作曲者は今なおジュゼッペと書かれています。JASRACのデータベースには、ジュゼッペが作曲者だが、トンマーゾ説もあるといった感じで記載されています。
ジョルダーニ兄弟はナポリの裕福な家に生まれ、父親も作曲家でした。父親の名前もジュゼッペだったため、次男はジョルダネッロ(Giordanello)と呼ばれていたそうです。小ジョルダーニといったところでしょうか。
一家は1752年にロンドンに移住します。兄弟はそこで音楽活動を展開しますが、ジュゼッペはまもなくナポリに帰り、そこで作曲活動を行います。多くのオペラや聖歌、オラトリオなどを作曲し、当時のイタリアで最もよく知られた作曲家になります。
いっぽう、兄のトンマーゾは、ロンドンのコヴェントガーデンやロイヤルシアターで演奏するほど成功しますが、1764年にアイルランドの首都ダブリン移住、アイルランド音楽界を主導する重鎮になりました。一時ロンドンに戻りますが、数年でダブリンに帰り、そこで生涯を終えました。
ナポリに帰ったジュゼッペが兄が作曲した『カロ・ミオ・ベン』をコンサートで紹介したことから、それが彼の作品と思われるようになってしまったのではないでしょうか。
さて、歌の内容ですが、Caro Mio Bénというタイトルだけを見ると、女性が男性に思いを訴える歌のように思えます。caroは男性名詞に係る形容詞、mioは男性名詞に係る所有代名詞であり、bénは善、財産、幸福、愛情などを意味する男性名詞béneの語末を省略したものだからです。
ところが、ここがややこしいところですが、男性名詞だから男性を意味するとはかぎりません。béneは要するに「貴重なもの」という意味ですから、女性を指すこともあるし、子どもやペットなどを指す場合もあります。
詞のなかにIl tuo fedélが出てきますが、ilは男性名詞にかかる定冠詞、tuoは男性名詞に係る所有代名詞です。fedélはfedéleの語末を省略したもので、英語のgoodと同じ形容詞ですが、信者とか教徒を意味する名詞でもあります。男性名詞ですが、男性だけでなく、女性も含まれます。
本来は一般的な信者ではなく、キリスト教徒を指す固有名詞的な言葉ですが、ここでは信奉者というような意味で使われていると見てよいでしょう。
こう見てくると、私たちはCaro Mio Bénは当然男が女をかき口説く歌と思い込んでいますが、歌詞だけ見れば女性が男性の不実を嘆く歌ととることも可能です。そこで、お遊びに女性版を作ってみました。
愛しい私の恋人よ
これだけは信じてよ
あなたなしでは
私の心は衰えるばかりだって
私の愛しい人よ
あなたなしでは
私の心は砕け散りそうなの
あなたの信者は
いつもため息ついているのよ
やめてよ、残酷な仕打ちは
あんまりひどいじゃないの
やめてよ、つれないことは
あんまりよ
あんまりだわ
(以下省略)
(二木紘三)





