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Channel: 二木紘三のうた物語
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君は遥かな

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(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:菊田一夫、作曲:古関裕而、唄:佐田啓二・織井茂子

(女)    恋は悲しい 雲仙の
      花のつつじも 霧氷のかげに
      君の名を 君の名を
      呼びつつめぐる 春を待つ
      春には花が 咲くかしら

(男)    われは遥かな フランスの
      セーヌのほとり 旅路のはてに
      君の名を 君の名を
      呼びつつ待てば 秋の路
      木の葉が落ちて 百舌(もず)が鳴く

(男女)夢は悲しい 数寄屋橋
      水の流れに ネオンが咲いて
      君の名を 君の名を
      夜空の月に きいたなら
      またたく星が 涙ぐむ

《蛇足》松竹の大作『君の名は』の完結編・第三部の主題歌。東京を軸に、佐渡、北海道、雲仙をめぐる希有のメロドラマは、やっと大団円を迎えることになります。

 第三部の主題歌としては、佐田啓二と織井茂子がデュエットした『君は遥かな』のほかに、伊藤久男が歌った『忘れ得ぬ人』と『数寄屋橋エレジー』、淡島千景が歌った『綾の歌』があります。

 映画の公開は昭和29年(1954)4月で、レコードのリリースは同年6月。
 この年は、東宝の『七人の侍』『ゴジラ』、松竹大船撮影所の『二十四の瞳』という世界の映画史に残る名作も公開されましたが、最高の興行収入を得たのは『君の名は 第三部』でした。

 この年の2月、マリリン・モンローが夫の野球選手ジョー・ディマジオと来日しました。彼らは何回か飛行機を乗り継いでやってきたのですが、後宮春樹はどんな方法で渡仏したのでしょう。昭和20年代にも、フランスへの乗り継ぎ便はあったのでしょうか。
 船でスエズを通って行ったとすると、1か月近くかかったでしょうし、シベリア鉄道でも、数週間は要したでしょう。
 真知子が春樹に会いに行こうとしても、そう簡単に行ける状況ではなく、まさに「君は遥かな」だったわけです。

 しかし、この「遥かな」は、単に地理的な遠さだけを意味しているのではないと思います。相手が比較的近くにいたとしても、周囲の反対やら妨害、病気、決断できない状況などのためにいっしょになりにくい、といった事情も含んでいるのではないでしょうか。
 一般的にいって、そうした制約や障害が多いほど、情熱は燃え上がり、激しい恋になりがちです。

 周囲がみな賛成し、祝福してくれて、会いたくなればすぐに会え、地理的に離れていても、スカイプやらラインやらで顔を見ながら話ができ、数時間から10数時間も飛行機に乗れば直接相手に会える。これは恋というより、結婚か事実婚への普通のプロセスというべきでしょう。

 情熱の総量は人ごとに決まっており、短期間で急激に燃やすか、長期にわたって少しずつ燃やすかが違うだけ。前者が恋であり、多くの場合、破綻するか、燃え尽きて終了します。後者は破局しにくいものの、恋とは違うような気がします。
 そこで私はあえていいましょう、「破れない恋は恋ではない。何の障害もなく結ばれる男女の交わりは、波長の長い感情の交流にすぎない」と。

(上の写真は、真知子が勤める雲仙のホテルで病気になった徳枝〈浜口勝則の母〉が真知子の看病を受け、それまでの仕打ちを詫びる場面)。

(二木紘三)


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