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Channel: 二木紘三のうた物語
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芽生えてそして

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(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:永 六輔、作曲:中村八大、唄:菅原洋一

あなたのまつげが 震えて閉じて
涙のしずくが 伝って落ちて
私に芽生えた あなたへの愛
芽生えてひ弱な 愛の心を
優しく優しく 育てる月日
やがて私を 抱きしめる愛

その愛が 私を育てた愛が
いまは私を 苦しめ悩ませるの
あなたのまつげが 震えて閉じて
涙のしずくが 伝って落ちて
それが終わりの あなたへの愛

      (間奏)

その愛が 私を育てた愛が
いまは私を 苦しめ悩ませるの
あなたのまつげが 震えて閉じて
涙のしずくが 伝って落ちて
それが終わりの あなたへの愛
あなたへの愛

《蛇足》昭和42年(1967)6月、ポリドールから発売。ヒット曲を連発していた"六八コンビ"が満を持して世に送り出したもので、菅原洋一にとっては、昭和40年(1965)の『知りたくないの』に続くヒットとなりました。

 若いころ(に限ったことではないでしょうが)、女性の涙にグラッときた経験のある人は、けっこういるのではないでしょうか。
 友人か同僚以上ではないと思っていた女性が、何かのことで突然涙を流す。それを見た瞬間、いとおしさのような感情が男性に生じ、それが恋の芽生えとなります。

 恋仲になると、男性はじっくりその恋を育てていこうと思います。ところが、恋が深化するにつれて、お互いの思いにズレが生じ、愛情のバランスが崩れてくる場合があります。そうなると、女性の恋心が男性には重く感じられるようになります。相手の思いに応じきれなくなった男性は、別れを考えます。
 それを告げられた女性は、涙を流しますが、今度は、それで男性を引き留めることはできません。そして1つの恋が終わる……というのがこの歌の要旨でしょう。

 女性の涙は無敵の武器などといわれますが、男の涙も魔力を発揮することがあります。
 ある時期まで、といっても時点を特定できるわけではありませんが、まあ、半世紀以上前のことだと思ってください。「男は人前で泣くな。人前で泣いていいのは親が死んだときだけだ」といった趣旨のことをいわれた男性は多かったと思います。

 そんなふうに育てられて、陰で涙を流すことはあっても、人前では泣かない男性が、何かの折に耐えかねたかのように涙をにじませることがあります。それを見た女性が、「まあ、この強い人が泣いているんだわ」とグラッとくることがあるといいます。

 ふだん泣かない男が泣くから、男の涙が魔力をもつのであって、人前で簡単に泣く、つまり涙の安売りをしていると、男の涙の価値がなくなる……と思ったら、最近は全然違うようです。

 「泣き男子」といって、むやみやたらに涙を流す男がモテるそうです。大して感動的でもない映画やビデオを見て泣く、任せられた仕事をやり遂げたからといって泣く、上司に怒られたからといって泣く、ペットがかわいいからといって泣く、彼女につれなくされたからといって泣く、友人の結婚式でもらい泣きする、などなど。

 私などは、自分の涙にもう少し価値をもたせろよ、といいたくなりますが、若い女性たちには、すぐ泣くのは感受性がゆたかで優しい証拠と受け取られ、そういう男性と結婚すればいい家庭が築ける、と思われているそうです。
 男は強くあれ、女は優しくあれ、という古い価値観にとらわれているわけではありませんが、昔人間にはよくわかりませんな。

 なお、「男は簡単に泣くな」から私、および私と同年配以上の諸氏は除きます。年を取ると涙もろくなるのは自然の摂理ですから(*^_^*)。

(二木紘三)


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