(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo
作詞:神坂 薫、作曲:野々卓也、唄:白川奈美
1 ねんねん坊やの 住む里は 2 ねんねん坊やの ほっぺたは 3 ねんねん坊やの おねだりは 4 ねんねん坊やの 朝が来りゃ |
《蛇足》 昭和46年(1971)8月にビクターから発売、80万枚を売り上げる大ヒットとなりました(どの時点までのデータかは不明)。
このころ、どのチャンネルか忘れましたが、毎夜、放送終了の前にこの唄が、きれいな切り絵とともに流れていました。私は、寝酒を飲みながら、この女性と坊やの運命をいろいろ想像したものです。
2番に「だんだん似てくる面影は、今は会えない遠いパパ」とありますから、愛し合った夫とは死別だったのでしょう。
高度経済成長の真っ只中で、人手不足の時代でしたが、特別な技能もコネもないシングルマザーが、普通の会社で働くのは非常に困難でした。祖父母など、子どもを見てくれる人が身近にいない場合は、子どもを施設に預けたり、里子に出したりして、水商売に身を投じる人が少なくなかったようです。
いちばんかわいい盛りの子どもと離れて暮らさなければならない――これはどんなに辛いことだったでしょう。この歌が、キャバレーやクラブの子持ちのホステスに絶大な人気を誇ったといわれるのもうなづけます。
このころから、すでに半世紀たちますが、小さい子どもを抱えたシングルマザーの生活は、むしろ悪化しているとしか思えません。コロナ禍でさらに追い詰められ、身を売る女性が増えるのを楽しみにしていると公言する男たちがいるのは、まことに残念なことです。
里子といえば、『レ・ミゼラブル』のファンティーヌとコゼットを思い出します。
ファンティーヌは、捨て子だったため、名も姓も洗礼名もなかった。ファンティーヌは、小さいとき、通行人がつけてくれた名前。15歳のとき、パリに出て、お針子に。年のいった大学生と恋愛関係になり、夫婦同然の生活を2年続け、コゼットを産むが、不実な大学生は姿を消してしまう。
生活に窮したファンティーヌは、コゼットをテナルディエ夫婦に預け、北フランスの故郷の町に帰る。そこでは、マドレーヌと名前を変えたジャン・ヴァルジャンが事業に大成功して市長になっていた。
ファンティーヌは、彼の工場で働き始めるが、同僚たちの偏見からトラブルを起こし、クビになってしまう。仕送りに困った彼女は美しい髪の毛と前歯を売るが、それでは間に合わず、ついに娼婦になって養育費を送り続ける。
無理に無理を重ねたファンティーヌは、肺病に侵され、とうとう寝たきりになってしまう。その床で彼女が考えるのはコゼットのことばかり。
そのころ、マドレーヌは、ジャン・ヴァルジャンであることがバレて、逃亡しなくてはならなくなっていた。逃亡の途中、死の床にあったファンティーヌを見舞い、従業員の言い分を鵜呑みにしてファンティーヌをクビにしたことを謝り、コゼットを必ず守ると囁いた。それを聞いたあと、ファンティーヌは息絶えた。27歳だった。
『Les Misérables』と複数形ですから、この物語には不幸な人びとが大勢出てきます。そのなかでも、ファンティーヌの運命は際立って哀切です。
この部分を読むとき、私は「ユーゴーよ、あなたはどれだけ人を泣かせれば気がすむのですか」とつぶやきます。
ジャン・ヴァルジャンは、居酒屋を営んでいる悪辣なテナルディエから強引にコゼットを引き取ります。ここで、私は、
「よかったね、ファンティーヌ。コゼットはもう安全だよ。そして大きくなったら、ポンメルシー男爵夫人として、このうえなく幸せになるんだよ」
と彼女に呼びかけるのです。
(二木紘三)