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文部省唱歌
1 暫時(しばし)も止(や)まずに 槌(つち)うつ響 2 あるじは名高き いっこく老爺(おやじ) 3 刀はうたねど 大鎌小鎌(おおがまこがま) 4 稼ぐにおいつく 貧乏なくて 昭和22年改定後の歌詞 2 あるじは名高い 働きものよ |
上のイラストは、2023年の年賀状用に描いたもの。作業場があるのに露天で仕事をしているのがツッコミどころ。
《蛇足》 大正元年(1912)12月発行の『尋常小学唱歌(四)』に掲載されたのが初出。
上の歌詞欄では、現代仮名遣いおよび新字体に変えて掲載しました。
以後音楽教科書への掲載は続きましたが、昭和17年(1942)発行の国民学校第四学年用『初等科音楽二』では、「暫時もやまずに」が「しばしも休まず」に、「いつこく老爺」が「いつこく者よ」など口語表現に変えられ、さらに3番、4番が削除されました。
敗戦後の昭和22年(1947)に発行された音楽教科書では、新しく採用された歌が中心で、戦時中の唱歌は削除されるか、歌詞を変えて掲載されました。
『四年生の音楽』に掲載された『村の鍛冶屋』は、昭和17年版とほぼ同じですが、「いっこく者よ」が「はたらき者よ」になるなど3か所が変えられ、タイトルも『村のかじや』と平仮名になりました。
教科書への掲載は続き、愛唱されましたが、農林業が機械化され始めた昭和30年代頃から次第に掲載されなくなり、昭和60年(1985)には、すべての教科書から消滅しました。
鍛冶屋がほとんど見られなくなり、市町村合併で村が激減した状況では、しかたないことかもしれません。
とはいえ、いささか残念です。鍛冶屋は、小説や童話、漫画にはよく出てくるんですけどね。
鍛冶屋には、野鍛冶、専門鍛冶、刀鍛冶(刀工)の3種類があります。
この歌に歌われているのは野鍛冶で、農林業や家庭で使う鉄製品を作ったり修理したりするのが仕事。
専門鍛冶は、刃物や調理用品、食器など特定の製品だけを作る職人です。
刀鍛冶は、文字通り刀剣を作る専門家ですが、条件が厳しく、なるのがなかなかむずかしいそうです。
鍛冶屋や農機具に疎い世代の人のために、歌詞に出てくる道具について、少し説明しておきましょう。
鉄から道具を作るには、まず炭火で鉄を真っ赤に熱してから鉄の台の上で金槌で叩きます。これを繰り返しながら、必要な形に整えていきます。炭は、備長炭など火力の強い白炭を使うのが普通です。火力を高めるための送風機がふいごです。
必要な形ができたら、真っ赤に熱した鉄を水につけます。これを焼入れといい、これにより鉄は固く強くなります。
熱した鉄を水につけると、その周りの水が急速に湧き立ち、湯の泡を吹き上げます。この泡が湯玉です。
馬鍬は木の柱に10本前後の鉄の刃を植え付けた農具で、これを牛や馬に牽かせて、田畑の土を砕いてならします。田植えの前の代掻きなどに使います。
作鍬は、ただ鍬とだけいうことが多く、木製の柄(え)と鋭角に鉄の刃がついた道具で、人力で土を掘り起こすのに使われます。刃の形はさまざまで、長方形の1枚の刃で構成されているものや、フォークのように3本か4本の刃に分かれているものなどがあります。
鋤は、幅の広い長方形の刃に、まっすぐに柄がついたシャベルのような道具。土を掘り起こすための道具です。
畑や山に仕事にいった人が、昼飯時に魚や鳥、猪の肉を鋤の上に乗せて焼いて食べたのがすき焼きの始まりという説があります。
その他の言葉についていうと、いっこくは、ニュアンスは違いますが、頑固とほぼ同じです。
懶惰は、怠けること、面倒くさがること。
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このページの最上部・タイトル下の正方形の絵は、今話題のAIによるドローイングシステムで描いてみたものです。AIドローイングシステムは、ありとあらゆる種類の絵や、絵に描かれるような状況をAIに覚え込ませ、それに基づいてイラストや画像を描かせるシステムです。
私が「"village blacksmith and children watching him" manga comics」というキーワードで描かせてみたところ、上の油絵風の絵が出てきました。
manga comicsは、キーワードとしては効かなかったようなので、これを外したり、別のキーワードを使ったりして、3,4のサービスを試してみましたが、いずれもヨーロッパ中世の貧乏村の風景しか出てきませんでした。
どうも、日本を含め、アジア各地域の絵のデータは、まだほとんど覚え込ませていないようです。日本語化されていないことも関係あるかもしれません(2022年12月現在)。
AIドローイングシステムは、本の挿絵程度なら、アウトプット後に手直しすれば、今のレベルでも十分使えるようです。
AIの進歩は急速なので、個性的な絵も遠からず描けるようになるでしょう。
AIがあまり進歩すると、人間の仕事が奪われるのではないかと心配する人がいます。分野によっては一時的にそういう状況が現れるかもしれませんが、やがてAIと折り合った安定した社会になるはずです。
AI囲碁、AI将棋は、人間の棋士がとうてい及ばないレベルに達していますが、棋士は健在です。むしろ、棋力を高めるのにAIを利用するというふうな使い方をしていると聞きます。
AIがいくら進歩しても、それを使うのは人間ですから、あまり心配する必要はないと思います。
(二木紘三)