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Channel: 二木紘三のうた物語
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酒と泪と男と女

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(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞・作曲・唄:河島英五

忘れてしまいたいことや
どうしようもない寂しさに
包まれたときに男は
酒を飲むのでしょう
飲んで 飲んで 飲まれて 飲んで
飲んで 飲みつぶれて 眠るまで飲んで
やがて男は 静かに眠るのでしょう

忘れてしまいたいことや
どうしようもない悲しさに
包まれたときに女は
(なみだ)みせるのでしょう
泣いて 泣いて ひとり泣いて
泣いて 泣きつかれて 眠るまで泣いて
やがて女は 静かに眠るのでしょう

         (間奏)

またひとつ 女の方が偉く思えてきた
またひとつ 男のずるさが見えてきた
俺は男 泣きとおすなんて出来ないよ
今夜も酒をあおって 眠ってしまうのさ
俺は男 泪は見せられないもの
飲んで 飲んで 飲まれて 飲んで
飲んで 飲みつぶれて 眠るまで飲んで
やがて男は 静かに眠るのでしょう

《蛇足》昭和51年(1976)6月25日にリリースされた「河島英五とホモ・サピエンス」のデビューアルバム『人類』の収録曲で、彼の代表作となりました。
 シンガー・ソングライターのほか、俳優としても活躍、東宝映画やNHKドラマなどに出演しました。

 曲には、優しさに裏打ちされた男の強さ、人には見せない男の哀しさや寂しさといった"男であること"にこだわった作品が多く、身長180センチの恵まれた体躯から絞り出すように歌う太い声が、それを強調していました。
 平成13年
(2001)4月16日没。49歳の誕生日を迎える1週間前のことでした。

 私は、彼の歌はほかには、『野風増(のふうぞう)』と『時代おくれ』しか知りませんが、逝去時のニュースから「生き急いだ人物」という印象を受けました。

 生き急ぐ人たちは、普通の人が少しずつ燃やし続ける生命のエネルギーを、早いうちから燃え上がらせ、短期間に使い切ってしまいます。その人生は濃密ですが、短く、それゆえ、多かれ少なかれ悲劇性を帯びます。
 芸術家に多く見られるタイプですが、そのほか革命家、薬物やアルコール・賭博などの依存症、テロリストなどにも、そうした印象を残す者がいます。

 彼らに共通しているのは、早ければ十代のうちに、胸の内に空洞のようなものが生じ、それが次第に膨らんでいくことです。彼らはそれを価値ある何かを遺したいとか、社会をよくしたい、みんなに認められるようなことをしたい、思い切り贅沢したい、何でもいいから生きた証がほしい、といった使命感や欲求を満たすことで埋めようとします。

 もう1つの特徴は、人生は短いと感じている者が多いことです。そこで、少しでも早く自分の使命を果たし、あるいは欲求を充足させようとして、一挙に生命のエネルギーを使い切ってしまいます。彼らは、意識している、いないに拘わらず、常に「死」を抱え込んで生きているのです。

 河島英五は平成13(2001)1月27日、富山のコンサートから帰宅した昼頃、吐血したため緊急入院しました。検査の結果、胃が切れて血が止まらなくなるマロリー・ワイス症候群と診断され、さらに肝硬変や静脈瘤も見つかりました。
 入院してから、吐き気と下痢が止まらず、
体重が一気に20キロ以上も減ったそうです。

 その後、若干恢復、予定されていたコンサートをこなしましたが、それも長くは続きませんでした。
 最期のようすを『日刊ゲンダイ』は、次のように報じています。

 重大局面が4月14日に訪れる。大阪でトーク&ライブショーを終えて帰宅。河島は深夜に吐血。それでも、「病院には行かさんといてくれ」と横になったが、朝に再び吐血して救急車で病院に搬送された。

 その日は奈良でコンサートが予定されていて、「歌わしてくれ」と主張して入院が遅れそうになる最悪の事態も。結局、数時間後に意識がなくなり、医者は「100%意識が戻らない」と宣告したほどだが、まもなく夫人の呼びかけに応えて意識は回復。呼吸器をつけて点滴と輸血のチューブがつながっているのに、「こんなことしとられん、ギター持ってきて」など家族としゃべり続けた。

 だが、ふと黙りこくったと思ったら、それが最期。4月16日未明、家族に囲まれ、笑いながら息を引き取った。2日後に音楽葬形式の葬儀が奈良市で行われ、3人の子供たちが生ギターを手に熱唱。倒れた後、「花見に行きたい」と言っていたため、遺骨の一部は自宅庭にある大きな桜の木の下に埋められた。

 今では"時代おくれ"となった"男らしさ"を貫いた、みごとな一生というべきでしょう。

(二木紘三)


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