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Channel: 二木紘三のうた物語
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野風増(のふうぞ)

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(C)Arranged by FUTATSUGI Kozo


作詞:伊奈二朗、作曲:山本寛之、唄:河島英五

お前が二十歳(はたち)になったら
酒場で二人で 飲みたいものだ
ぶっかき氷に 焼酎入れて
つまみはスルメか エイのひれ
お前が二十歳になったら
思い出話で 飲みたいものだ
したたか飲んで ダミ声上げて
お前の二十歳を 祝うのさ

いいか男は 生意気ぐらいが丁度いい
いいか男は 大きな夢を持て
野風増(のふうぞ) 野風増 男は夢を持て

お前が二十歳になったら
女の話で 飲みたいものだ
惚れて振られた 昔のことを
思い出しては にが笑い
お前が二十歳になったら
男の遊びで 飲みたいものだ
はしごはしごで 明日(あした)を忘れ
お前の二十歳を 祝うのさ

いいか男は 生意気ぐらいが丁度いい
いいか男は 大きな夢を持て
野風増 野風増 男は夢を持て

お前が二十歳になったら
旅に出るのも いいじゃないか
旅立つ朝は 冷酒干して
お前の門出を 祝うのさ

いいか男は 生意気ぐらいが丁度いい
いいか男は 大きな夢を持て
野風増 野風増 男は夢を持て
野風増 野風増 男は夢を持て

《蛇足》ウィキペディアの『野風増』によると、「この曲は昭和55年(1980)に作曲家・山本寛之によってリリースされ、その数年後に河島英五・橋幸夫らによってカヴァーされてヒットした」とあります。

 ウィキペディアにはこれ以外の情報がほとんどなく、発表時の歌手とか、作詞者・伊奈二朗の経歴など、わからないことだらけでしたが、なちさんのお知らせ(下記投稿欄参照)で、いくつかのことがわかりました。
 
伊奈二朗さんは本名、塚本定男で、驚いたことに岡山県警の警官だったそうです。現職時代、勤務地での防犯イベントで、自作の防犯ソングなどを歌い、"歌うおまわりさん"として有名だったようです。
 『野風増』リリース時には、作詞家か作曲家のいずれかが、あるいは2人いっしょに歌ったのではないかと思われます。

 さて、橋幸夫やデューク・エイセス、出門英(ヒデとロザンナ)、堀内孝雄などもこの歌を歌っていますが、ほとんどの人が河島英五の持ち歌と記憶しているのではないでしょうか。
 歌のうまい・下手ではなく、歌詞や曲調が酒と男っぽさという河島英五のイメージと強烈に結びついているからでしょう。

 男の子が生まれたときか、それがやんちゃ盛りになったときか、あるいは反抗期になって手を焼いているときかわかりませんが、息子が二十歳になったらいっしょに酒を飲もう、そのときにはこんなことを言おうと、楽しみにしている父親の気持ちがダイレクトに伝わってきます。

 タイトルと歌詞に出てくる野風増は、作詞家・作曲家の出身地である岡山県とその近隣県で使われている「のふうぞ」という方言で、生意気とか勝手気まま、傍若無人といった意味だそうです。
 「のふうぞ」の語源については諸説あるようですが、こうした意味と「のふうぞ」という音から、野放図が方言化したものと見てよいのではないでしょうか。いつごろかはわかりませんが、一般の言葉が方言になる際によく見られる音韻変化が起こったのでしょう。

 多くの方言がそうであるように、「のふうぞ」も、日常の使用では表記法はとくに意識されず、書く場合はひらがなが使われたはずです。それに「野風増」という漢字を当てはめた作詞者のセンスはすばらしい。
 野原を吹き渡る風のように、自由に、思うがままに生きる青年の姿が生き生きと伝わってきます。ひらがなの「のふうぞ」では、そうしたイメージは湧きませんし、野放図では詩の言葉になりません。

 自分が思うようにものを言い、行動していると、しょっちゅう摩擦が起こるだろう、だが、そういう経験を通して自分のアイデンティティが定まってくるのだから、恐れずに堂々と生きろ――そんなアドバイスを私もしたかったのですが、男の子はできませんでした。
 しかし、昔、似たようなことを娘たちにいったような気がします。いっしょに酒は飲まずに。男の子だろうが女の子だろうが、親が子どもにいいたいことは同じです。

(二木紘三)


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