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お前が二十歳(はたち)になったら |
《蛇足》ウィキペディアの『野風増』によると、「この曲は昭和55年(1980)に作曲家・山本寛之によってリリースされ、その数年後に河島英五・橋幸夫らによってカヴァーされてヒットした」とあります。
ウィキペディアにはこれ以外の情報がほとんどなく、発表時の歌手とか、作詞者・伊奈二朗の経歴など、わからないことだらけでしたが、なちさんのお知らせ(下記投稿欄参照)で、いくつかのことがわかりました。
伊奈二朗さんは本名、塚本定男で、驚いたことに岡山県警の警官だったそうです。現職時代、勤務地での防犯イベントで、自作の防犯ソングなどを歌い、"歌うおまわりさん"として有名だったようです。
『野風増』リリース時には、作詞家か作曲家のいずれかが、あるいは2人いっしょに歌ったのではないかと思われます。
さて、橋幸夫やデューク・エイセス、出門英(ヒデとロザンナ)、堀内孝雄などもこの歌を歌っていますが、ほとんどの人が河島英五の持ち歌と記憶しているのではないでしょうか。
歌のうまい・下手ではなく、歌詞や曲調が酒と男っぽさという河島英五のイメージと強烈に結びついているからでしょう。
男の子が生まれたときか、それがやんちゃ盛りになったときか、あるいは反抗期になって手を焼いているときかわかりませんが、息子が二十歳になったらいっしょに酒を飲もう、そのときにはこんなことを言おうと、楽しみにしている父親の気持ちがダイレクトに伝わってきます。
タイトルと歌詞に出てくる野風増は、作詞家・作曲家の出身地である岡山県とその近隣県で使われている「のふうぞ」という方言で、生意気とか勝手気まま、傍若無人といった意味だそうです。
「のふうぞ」の語源については諸説あるようですが、こうした意味と「のふうぞ」という音から、野放図が方言化したものと見てよいのではないでしょうか。いつごろかはわかりませんが、一般の言葉が方言になる際によく見られる音韻変化が起こったのでしょう。
多くの方言がそうであるように、「のふうぞ」も、日常の使用では表記法はとくに意識されず、書く場合はひらがなが使われたはずです。それに「野風増」という漢字を当てはめた作詞者のセンスはすばらしい。
野原を吹き渡る風のように、自由に、思うがままに生きる青年の姿が生き生きと伝わってきます。ひらがなの「のふうぞ」では、そうしたイメージは湧きませんし、野放図では詩の言葉になりません。
自分が思うようにものを言い、行動していると、しょっちゅう摩擦が起こるだろう、だが、そういう経験を通して自分のアイデンティティが定まってくるのだから、恐れずに堂々と生きろ――そんなアドバイスを私もしたかったのですが、男の子はできませんでした。
しかし、昔、似たようなことを娘たちにいったような気がします。いっしょに酒は飲まずに。男の子だろうが女の子だろうが、親が子どもにいいたいことは同じです。
(二木紘三)