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作詞・作曲:平岡精二、唄:旗 照夫
1 ゆうべあいつに 聞いたけど 2 どんなに君に 逢いたくて |
《蛇足》 昭和35年(1960)、東芝音楽工業から発売。
平岡精二はジャズ畑のプレイヤー・ソングライターですが、この歌や『爪』は、私はシャンソンだと思います。歌詞をフランス語にして歌ったら、多くの人がそう思うでしょう。
シャンソンは、フランス語では「歌」で、民謡・唱歌から大衆歌謡、クラシック系の声楽まで、歌詞にメロディがついた曲は、すべてシャンソンです。日本の『浪曲子守唄』や『唐獅子牡丹』なんかも、フランス語でいえばシャンソンです。
しかし、日本人は戦前から、シャンソンを歌一般ではなく、人生の哀歓や時代風潮をエスプリの効いた歌詞で歌う、かなり狭い範囲の歌と受け取ってきました。『ラ・マルセイエーズ』をシャンソンといったら、そりゃちょっと違うだろう、と感じたものです。
親戚にクラシック以外は受け付けないという男がいて、その連れ合いがかけているCDのシャンソンを聴いて、「こんなフニャフニャした曲のどこがいいんだ」といったそうです。
たぶん、エディット・ピアフかジュリエット・グレコあたりが語るように歌うシャンソンを聴いたのでしょう。
シャンソンは、基本的には言葉です。演奏は、歌手の歌い方に合わせて奏でるアコンパニーで、そのときどきの歌手の歌い方によって雰囲気が違ってきます。ですから、言葉への関心が低く、演奏にしか反応しない人は、「なんだ、これは」と思うかもしれません。
演奏用にアレンジされたシャンソンを聴いたら、また違った感想になったかもしれません。
ところで、『あいつ』が発表されたころ、仲間内では、これは、喧嘩別れした恋人・ペギー葉山への平岡精二のメッセージではないか、という噂がささやかれたそうです。真偽はわかりませんが、曲を聴くと、確かに特定の人へのメッセージ・ソングのように思えてきます。
(二木紘三)