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スコットランド民謡、詩:ロバート・バーンズ
作曲:ジェームズ・E・スピルマン、
日本語詞:龍田和夫
1 やさし流れ 緑なす 岸辺に立ち 歌いしは 君が夢路 やすかれと 流れに寄せ 祈る身は 木々のさやぎ 丘を越え 谷のつぐみ 鳴けばとて 君が夢路 破るまじ わがいとしの 君なれば 2 浅き谷を 呼びあつめ 谷をめぐる この流れ 朝日はえて 群れあそぶ 羊の声 なつかしや 目路(めじ)の限り 花咲ける 谷の緑 さやけしや 夜のしじま いつしかに 牧場を越え しのびきぬ 3 清き流れ すべりゆく 風に散りて きらめきぬ みぎわ近く たたずめば 紅き花の ただよいぬ 窓辺近く 流れゆく 水の音の 静けしや 君が夢路 やすかれと 流れに寄せ 祈る身は Flow Gently Sweet Afton 1. Flow gently, sweet Afton! among thy green braes, Flow gently, I’ll sing thee a song in thy praise; My Mary’s asleep by thy murmuring stream— Flow gently, sweet Afton, disturb not her dream. 2. Thou stock-dove, whose echo resounds thro’ the glen; Ye wild whistling blackbirds in yon thorny den; Thou green-crested lapwing, thy screaming forbear— I charge you disturb not my slumbering fair. 3. How lofty, sweet Afton! thy neighbouring hills, Far mark’d with the courses of clear, winding rills; There daily I wander as noon rises high, My flocks and my Mary’s sweet cot in my eye. 4. How pleasant thy banks and green valleys below, Where wild in the woodlands the primroses blow! There, oft as mild evening weeps over the lea, The sweet-scented birk shades my Mary and me. 5. Thy crystal stream, Afton, how lovely it glides, And winds by the cot where my Mary resides; How wanton thy waters her snowy feet lave, As gathering sweet flow’rets she stems thy clear wave. 6. Flow gently, sweet Afton! among thy green braes, Flow gently, sweet river, the theme of my lays! My Mary’s asleep by thy murmuring stream— Flow gently, sweet Afton! disturb not her dream. |
《蛇足》 スコットランド民謡。ロバート・バーンズ(Robert Burns 1759-1796)が1791年に書いた詩に、アメリカの弁護士で作曲家ジョナサン・E・スピルマン(Jonathan E. Spilman 1812-1896)が1837年に曲をつけたもの。
バーンズは1759年、スコットランド南西部サウス・エアシャー、アロウェイの貧しい農家に生まれました。生活の資を補うため収税吏の職についた一時期を除いて、農業をしながら詩を書き続けました。作品の多くは方言(ゲール語)で書かれ、大衆に愛誦されました。
彼の家はアフトン河畔のエアシャーにあり、その流れに感動して作ったものといわれます。詩の中のメアリーは、諸説ありますが、バーンズが27歳のとき求愛したメアリー・キャンベル(Mary Campbell 1763–1786)を指すというのがほぼ一致した見方。
メアリーの母方の親戚で牧師のデイヴィッド・キャンベルは、メアリーは、美しく、溌剌とした青い目の少女だったと述べています。
今日まで伝わっているところによると、バーンズは1786年の4月に教会でメアリーと知り合い、ひと目で恋に落ちたようです。2人は交流を重ねますが、メアリーは、チフスにかかった兄のロバートの看病している間に感染して、同年10月20日に亡くなってしまいました。23歳でした。
わずか半年の付き合いであり、文献もほとんどないことから、どの程度の関係だったかはわかりませんが、サウス・エアシャーのエアー川の岸でスコットランドの伝統的な結婚の形式に従って貞節の誓いを交わした、という話が伝わっています。
バーンズは、メアリーに『ハイランドのO嬢(The Highland Lassie O)』『ハイランドのメアリー(Highland Mary)』『天上のメアリーへ(To Mary in Heaven)』という3つの詩を捧げています。
2つ目の詩から、メアリー・キャンベルは、「ハイランドのメアリー」とも呼ばれています。
バーンズのいくつかの詩に曲が付けられていますが、『ハイランドのメアリー』もその1つです。![Highlandmary Highlandmary]()
ローラ・インガルス・ワイルダーが書いた「インガルス一家」シリーズの4巻目『シルバーレイクの岸辺で』に、お父さんのバイオリンに合わせて、メアリーが『ハイランドのメアリー』を歌うという場面があります。
メアリー・キャンベルのあまりに短い生涯と、2人のはかない恋への感動が、『アフトン川』や『ハイランドのメアリー』が永く愛唱されてきた理由でしょう。
右の写真はメアリーが葬られたグリーンノック中央墓地に建てられた記念碑。
スピルマンのメロディは、アメリカでは讃美歌にも使われ、またサウス・カロライナ大学の校歌にもなっています。
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白河夜舟さんからコメント(投稿欄参照)をいただいたので、原詩について調べ直してみました。
私が原詩を採ったのは、飯塚書店刊『イギリス民謡集』(1957年11月5日発行)の98~99ページで、訳詞者は英独仏の民謡・歌曲を数多く訳している龍田和夫(本名は作曲家の清水脩)です。
同書では、それぞれの箇所が、resounds from the hill, in yon thorny dell とあり、私の写しまちがいではありませんでした。
ただ、hillとdellについては、誤記か誤植の可能性もありますので、ほかの資料にも当たってみました。
これならたぶんだいじょうぶだろうと思われたのが、アラン・カニンガム(Allan Cunningham)編の"The Complete Works of Robert Burns: Containing his Poems, Songs, and Correspondence.With a New Life of the Poet, and Notices, Critical and Biographical"で、1855年にニューヨークのPHILLIPS, SAMPSON, AND COMPANYから出版されています。
これで見ると、問題の箇所は確かにglen、denとなっていました。ただし、resoundsの次がfromでなく thro’になっていました。そこで、原詩を上記のように直しました。
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櫻井雅人・一橋大学名誉教授から、『アフトン川の流れ』には別ヴァージョンの曲があるというご教示をいただきました。櫻井さんは、日本のオリジナル唱歌と信じられていた『仰げば尊し』が、実はアメリカの曲だったことを発見して、多くの人に衝撃を与えた人です。
『アフトン川』には何人もの作曲家が曲をつけていますが、おもなものは次の2つ。曲のタイトルは、両方とも"Afton Water"となっています。
1つは、"Scots Musical Museum"の第4巻に載っている "Afton Water(伝承版)"。作曲者は不明ですが、作曲は第4巻が発売された1792年の前ということになります。
"Scots Musical Museum"は、彫刻師で楽譜販売業のジェームズ・ジョンソン(James Johnson 1753?-1811)が、18世紀から19世紀のスコットランド民謡を体系的に収録した6巻のシリーズで、スコットランドの民謡を研究するうえでは最重要な文献とされています。
バーンズもこのプロジェクトに参画し、編纂に当たるとともに、自分の作品も寄稿しています。
もう1つは、スコットランドの詩人で作曲家のアレクサンダー・ヒューム(Alexander Hume 1811–1859)が作曲した"Afton Water"。
グラスゴーのデイヴィッド・ジャック社から1859年に出版された"The Songs Of Robert Burns With Music"に載っています。
櫻井さんによると、イギリスではスピルマンの曲を知る人は非常に少なく、『アフトン川』の曲というと、"Scots Musical Museum"版またはヒュームの作品というのが常識のようになっているそうです。
(新しい情報を加えたので、再アップロードしました。したがって、いただいたコメントとは日付が食い違っています)。
(二木紘三)